〜Alden(オールデン)〜 ベリー・アメリカンな一足

 昔から憧れていた。アイビー・リーガーにこよなく愛され、親から子へと受け継がれていく愛着、ブランドとして知名度、あるいはオールデンの代名詞の様に使われている馬革シェル・コーボバンの類いまれなる光沢と強靱さ。これらの事実は確かに物欲を刺激するけれども、憧れの根拠はもっと本格的な部分である。
 アンバランスな左右の羽根。名作の誉れも高い靴にしては、Vチップは不思議な形をしている。それは甲の峰を中心に左右非対称である足の形を忠実に再現する。モディファイド・ラストを採用しているためだ。
 こうした靴が生まれて背景には、足にハンディキャップを抱える顧客への靴づくりだったという、創業以来変わらぬ姿勢がある。1887年から積み重ねてきた歩きやすさを追求。モディファルド・ラストは、それを余すことなく表現した「精密部品」なのだ。いびつな羽根も履きこめば足のフォルムになじんでしまう。
 消費社会はマジョリティの上に成り立つ。にもかかわらず機械化された工場へ姿を変えた今なお、彼らはオーソベディクシューズのノウハウを生かした靴をつくる。そこに惹かれる。しかしそれこそが古き良きアメリカを守りつづけている証であり、まったくもってベリー・アメリカンな一足である。

平凡社「紳士靴図鑑 ベスト50ブランド」より
【令和2年11月28日】

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