トリッカーズのモンキーブーツをジット見てください。サル顔に見えますか?
ワークシューズには職種ごとに多様なバリエーションが存在します。
たとえばアメリカの名門レッド・ウィングを例にすると、かの有名な4大傑作が上げられます。すなわち機械工などのためのエンジニアブーツ、森林伐採者向けのロガーブーツ、農協や牧場で働くカウボーイ用のローパーブーツ(モデル名は「ペコスブーツ」)。そして「アイリッシュセッター」の名で知られるレースアップブーツも、実はハンティング用に開発されたものなのです。
このほかにもホワイツ、ウエスコ、チペア、ウルヴァリン、ソログットといったワークシューズブランドも…。と、ここで気づくのが、いずれもアメリカのブランドだということです。そう、ワークシューズの多くはアメリカで誕生したのです。
というもの、国土の拡張が図られ、経済が急成長しつつあった頃の同国は、その過程において多様な労働を生み出し、それにともない、職種ごとに対応する機能や耐久性を備えたフットギアを必要としたからです。ルーファーブーツとかラインマンブーツなどと呼ばれる高所作業者向けもまた、アメリカが発祥。前者は屋根に昇って作業する人、すなわち大工のための靴で、日本の地下足袋に相当するものです。
いっぽう、後者の「ラインマン」とは電線工、すなわち送電線や電柱に登り、そこで架設や補修などの作業を行う人を指します。かつて新興国だったアメリカは、電気の普及が国の発展に不可欠なインフラとみなされていました。そうした背景もあって、命知らずのラインマンたちは少年たちの憧れの職業であったそうです。とはいえ、20世紀初頭のある記録では、ラインマンの3人にひとりが作業中の事故で命を落としたとか。本当でしょうか?ちょっとおおげさな数字に思えますが、いずれにせよ、彼らが足元の不安定な高所で、つねに危険にさらされながら作業していたのであろうことには疑いようもありません。 こうしたルーファーブーツやラインマンブーツにはいくつかのタイプがありますが、引っ掛かりにくく、滑りにくいソールを備える点で共通しています。また、靴が不用意に脱げぬよう、シューレースでしっかり締め上げることができることも重要なポイントですが、このしっかり締め上げるをより強化すべく進化を遂げたタイプが存在しています。 それは外羽根を、それに付随するシューアイレッドがトウの近くまで長く伸びたデザインのルーファーブーツやラインマンブーツ。この構造を採用したことで、爪先から足首までをレースでタイトに締め上げられることができるというものなのです。その大ぶりの外羽根は副次的ながら、側面の衝撃から足を保護する役を担っています。 と、ここでM6077の靴の画像を探してよくご覧下さい。なんとなくサルの頃に見えてきませんか?「そういえば…」という方も「見えないゾ」とおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。正直、筆者は後者です(笑)が、この種のブーツは甲部のデザインがサル顔を思わせるため、モンキーブーツなる異名があるのです。もっとも、じつは高所作業者のことを木登りが得意なサルに例えたことに由来するとの説もあって、どちらが正しいものなのかは定かではありません。
ちなみに、日本ではこの独特のデザインが注目されて、たしか80年代末〜90年代初め頃、お洒落に敏感な若者たちの間で人気になった記憶があります。それは本場アメリカのものではなく、イギリスのグレンソン社の製品。本格的なワーク作業ではないものの、その分、より上品なルックスであったのがウケたのかもしれません。 あいにく現行のグレンソンには、そのモデルはラインナップされていませんが、同じノーサンプトンのメーカであるよりトリッカーズに、昨今トレンドのファッションに合わせやすいよう筒状が少し短くデザインされたモデルがありましたので、ここではそれをご紹介しました。
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出典:靴を読むより
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